Blood chains

夢なんかじゃない・・・。これが私の完全犯罪。

第一章 初夏

 今日はとても暑い夏だった。

夏というのは簡単すぎるか、正確には7月5日である。7月のはじめなのにこんな猛暑というのは神のいじめなのだろうか。

私は藤沢 梢。紫海高校に通ういたって普通の一般市民である。それ以外の何者でもない。そんな私の自己紹介なんてどうでもいいことだ。

そんなことよりも私は機嫌がものすごく悪かった。こんな暑い日に学校があるなんて。私には信じられないことだ。しかも私の家の前には堂々と立ちはだかる大きな坂があるのだ。そんなことを考えると頭が痛くなるので、帰る前にどこか寄り道していこうと考えた。

さほど遠くないが、す少し歩いたところの交差点を右に曲がると、自動販売機がある。そこまでなら歩く気力も減らないだろう。重い足取りだが一歩一歩前へ進む。

交差点を右に曲がると小さなベンチと目当てのモノがあった。その時私は嬉しさのあまりに走っていた。さっきまでの重い足取りはどこえいったのやら。今は自動販売機が私にとってのオアシスだった。

そして私は自動販売機に前に立ち、財布から小銭を取り出した。小銭の投入口に銀色に輝く小銭を入れた。ボタンは鈍い光を放ち始める。

私はペットボトルジュースのボタンを押すと、ガタンと音を鳴らして落ちてきた。幸い、炭酸飲料ではなかったため吹き出すことはなかった。

冷たいペットボトルが気持ちよかった。私はペットボトルを持ってベンチに腰をおおろした。

「お前・・・藤沢か?」

自動販売機の後ろから聞き覚えのある声がした。私はその声を聞いた瞬間、確かに感じた。最悪だと。

幸せな時間は一気に壊され、やってきたのは不満、不幸という不がつく感情だった。

「藤沢だよ・・・」

私は不満をたくさん込めた言葉でかえした。

彼の名前はたしか九城 時夜。私のクラスの無表情野郎だ。だが何故か人気が高い。それはきっと勉強ができるからだろう。

さて、ここからが本題だ。何故この無表情野郎の九城 時夜がここに居るのだろうか。私は仕方なく聞いてみることにした。

「なんで、いるの?」

「自販機あったから」

ごもっともな意見だ。そう、ここは自動販売機という公共の場、私がどうこう言えることではない。

「な、ならいつからいたの?」

「藤沢が来る十分前。俺に気づかないお前は馬鹿だな」

完敗だ。これは私が馬鹿だった。こいつに言われても何も言い返すことはできない。にしても九城は毒舌だったのか。

私が少しばかり落ち込んでいると九城が隣に座ってきた。私は顔を上げる気にもならなかった。ただ下を向くことしかできなかった。

「まだいたの?九城時夜」

「フルネームやめろ、時夜でいい」

相手を名前で呼ぶのは初めてだった。クラスの人たちとなど話もあまりしない。無論それは九城・・・いや、時夜も初めてだろう。彼が話しているところを見るのは初めてだ。時夜は色白でツンツンと立った髪の毛に少し青混ざりの瞳をしている。まぁ美形というのだろう。

私は少し時夜を見てから彼にこういった。

「時夜がそうなら私は梢でいいよ。藤沢なんて堅い」

「わかった」

時夜は軽く頷くと自分の飲み物を一口飲んだ。私は自分のペットボトルに目をやると水滴がたれていた。

しばらく沈黙が続くと私はその沈黙に耐えられなくなった。

「ねぇ時夜」

「なに?」

時夜の簡単な答え方には少し刺があった。だからあまり人と会話が続かないのかと、考えられる。多分それは私も同じだろう。

だから私は少し変わった質問を時夜にした。

「・・・時夜はさ、この世界、今の世界をそう思う?」

「ゴミだと思う」

即答だった。迷いなど感じられないストレートな言葉を私にかえした。だが自然とわかってしまう。この世界がゴミだということは。

「退屈なの?」

時夜ならわかってくれるかもしれない。私は心どこかでそう思っていただろう。

「あぁ退屈さ、まぁお前ほどではないが」

「今の言葉、撤回して」

だけど時夜の言うとおりかもしれない。私は人間もこの世界も嫌いだ。けれど私は人間に産まれてしまった、この世界に産まれてしまった。それは死ぬまで変えることはできない。

そんなことを考えているうちに、ペットボトルのジュースはだいぶ温くなってしまった。でもそれは当たり前だろう。この暑さで長時間いるような気がするのだから。

私は携帯電話を取り出し時間を確認する。パッと明るい画面も、この日差しには負けるのか暗い。なので日差しを手で防ぎながら時間を確認した。

すると時夜は私の携帯を見て自分の携帯を取り出した。

「梢の携帯、俺と色違い」

時夜の携帯は深い藍色で、私の携帯は鮮やかな赤だった。

「あ・・・」

少し驚いてしまった私は小さく声を漏らしてしまった。すると少し時夜は笑った。そういえば、時夜が笑った顔ははじめて見る。美形のせいか、美しいと感じてしまう。

ボケっと私がしていると時夜は私に自分の携帯を突き出してきた。

「俺のメアド」

「え?うん」

私は携帯を時夜の携帯に近づけて赤外線通信をした。私ははじめてクラスメイトとメールアドレスを交換した。これをきっと世の中は友達というのだろうか。

その後、私は時夜と別れて今度こそ自分の家に帰ろうと家に向かった。やはり家の前の坂はきつい。脚が二倍の重さに感じる。

額の汗を拭いながらやっとこの坂を登りきった。

ヘトヘトの状態で家に入るとひんやりとした空気が私を包んだ。今の私にとって、幸せと言えるこの状態。リビングのエアコンだろうとすぐにわかった。リビングからは母が笑顔で「お帰り」といった。私は「ただいま」と返すとすぐに部屋に向かった。

ベッドに腰をかけるとドッと疲れが襲ってきた。あの暑さの中、ずっ外にいたのだから仕方ない。けれど私は疲れに耐えて着替えを始めた。

しんと静まり返った部屋の中に、薄いカーテンが風になびかれていた。それが私にとっては少し不気味に感じた。

静かにガラス戸を占めてゆっくり制服から私服に着替え、ベットに寝転んだ。そしてふと頭に突然浮かんだ。

 

『今日もいつもどおりだった』

 

少し違うといえば時夜と話したことだ。そんな僅かなことでも、日常にはかわりないことだ。いつもと変わらない退屈な日。隕石でも落ちればいいのに。そんなくだらないことを願ってしまう自分もいる。

そんなことを考えていたら携帯の着信音が鳴り響いた。静かな部屋に変わらない音が鳴る。渋々携帯を開いて新着メールを開ける。

「・・・なに・・・これ」

夕日が照す、静まり返った部屋に私の唖然とした声が響く。この一通のメールが私自身を変えるなんて、数秒前の私は知らなかった。

真っ赤に光る画面に黒い文字を、私は信じる事ができなかった。

 

『おめでとうございます。絡繰の殺屋敷への招待されました。記念すべき一人目、藤沢 梢様』

~注意事項~

やぁ、皆さんこんにちは。これから貴方はblood chainsに参加していただきます。

なんのために参加するのかって?それは最後にならないとわからない。

生き残らなければ知ることのできない。

そんな選ばれし君なら、生き残れるかもしれない・・・ね。

じゃあ説明しよう。

 

blood chains 注意事項

 

・ここの島からは一歩も外に出ないでください。

出でしまった人から、blood chainsの犠牲になってもらいます。

・武器は何を使用しても構いません。

・最後にもう一つ。独りになれば、ここからの脱出できる鍵が与えられます。

 

これはけしてゲームなんかじゃありません。言ってみれば試練、試験でしょうね。

身分、名誉、関係、すべてを捨てて願う。

さて、それは一体なんでしょうか、答えは自分で確かめてくださいね。

それではまた、お会いしましょう。

貴方が、生きていられたら・・・の話ですが。

 

Blood chains、開幕

企画者 道化師